リラックスしているとき、私たちの身体はどんな状態になっているんだろう。
心拍数は何回? 呼吸はどれくらいゆっくり? 筋肉はどのくらい緩んでいる?
部屋の温度や湿度、音や明るさにも、リラックスしやすい条件はあるんだろうか。
気になったので、身体の内側と外側、いろいろな数値を調べてみました。
果たして、人間がいちばんチルな状態に、数字で表せる正解はあるのでしょうか。
リラックスした身体と環境の数値一覧
今回考えるのは、眠っている状態ではなく、起きたまま心身がくつろいでいる状態。
まずは、今回調べた項目を一覧で見てみましょう。
ここで紹介する数値には、一般的な正常範囲、快適性の目安、研究で観察された変化が含まれています。ただし、リラックスの感じ方や身体の反応には個人差があり、すべての人に当てはまる理想値があるわけではありません。数字は正解ではなく、身体の状態を知るための参考として見ていきます。
身体の状態
| 項目 | 一般的な正常範囲 | リラックスの目安 | 研究で観察された変化 |
|---|---|---|---|
| 心拍数 | 成人安静時60〜100回/分 | 普段の安静時より低下する傾向 | 4週間の呼吸法・筋弛緩法で約2〜4回/分低下した研究がある |
| 心拍変動(HRV) | 統一された正常値なし | 安静時の一部の測定値は、副交感神経による心拍調節と関連 | ゆっくりした呼吸でHRVの一部の測定値が増大 |
| 呼吸数 | 成人安静時12〜20回/分 | 呼吸法では約5〜7回/分のリズム帯が研究されている | 約6回/分の呼吸で、呼吸に伴う心拍数の増減幅が大きくなる |
| 筋緊張 | 共通の数値なし | 不必要な力が抜けている状態 | 緊張と弛緩を繰り返す方法でストレス・不安の軽減が報告 |
| 体温 | 測定部位によって異なる。一般的な体温の目安は約36.1〜37.2℃ | リラックス専用の目標体温なし | 入眠前に手足の皮膚温が上昇。覚醒時の温熱刺激で心地よさが増した研究もある |
周囲の環境
| 項目 | 参考となる数値・基準 | 研究で分かっていること |
|---|---|---|
| 室温 | 18〜28℃(建築物環境衛生管理基準) | 服装・活動量・湿度・気流などによって快適さが変わる |
| 湿度 | 40〜60%(東京都の住宅向け指針) | 湿度は温熱的な快適さや乾燥感に影響する |
| 音 | 騒音に関する環境基準あり。用途・地域・時間帯で異なる | テレビ音・音楽・無音を比較した実験でHRVの反応に違い |
| 照明 | 照度はJISの照明基準あり。照度・色温度ともに、活動内容によって異なる | 光を浴びる時間帯によって体内時計への作用が変わる |
※正常範囲や快適性の目安は、リラックスの理想値を示すものではありません。測定条件・研究対象・出典については、以下の各項目で解説します。
リラックスすると、身体はどう変わる?
心拍数|低ければ低いほどいい?
成人の安静時心拍数は、一般に1分間60〜100回。リラックスすると、心拍数は低下する傾向があります。
ただし、「低ければ低いほどリラックスしている」というわけではありません。心拍数には運動習慣や体調、服薬なども影響するためです。つまり、何拍下がればリラックスしている、という共通の基準はありません。
高血圧の成人を対象とした研究では、4週間の呼吸法や筋弛緩法によって、安静時心拍数が平均約2〜4回/分低下しました。一方、短時間のリラクゼーションでは、気持ちが落ち着いても心拍数に明確な変化が見られない場合があります。
心拍数は、意識して直接コントロールするのが難しい。それなら、まずは落ち着ける環境を整えてみましょう。
実際、リラックスに関する多くの実験でも、心拍数は身体の反応を調べる指標として使われています。
心拍数の変化は、リラックスできているかを知るための、ひとつの手がかりとして考えるのがよさそうです。
→ American Heart Association「All About Heart Rate (Pulse)」
→ 呼吸法・漸進的筋弛緩法による心拍数への影響を調べたランダム化比較試験(2023年、PubMed Central)
心拍変動(HRV)|落ち着いた心臓は、規則正しいとは限らない
心拍変動(HRV)は、心臓が拍動する間隔の揺らぎのこと。
心拍数が平均60回/分と言っても、必ずしも一定の間隔で拍動しているわけではありません。心拍の間隔は、呼吸や自律神経の働きに応じて少しずつ変化しています。
この揺らぎには、自律神経による心臓の調節が反映されています。そのため、ストレスやリラックスが身体に与える影響を調べる研究でも、心拍数とあわせて測定されています。
HRVには、揺らぎの大きさや特徴を表す複数の測定方法があり、どの数値を見るかによって意味も異なります。
では、リラックスすると心拍の揺らぎは小さくなり、心拍の間隔が整うのでしょうか。
実は、そうとは限りません。
安静時には、HRVの一部の測定値が高いことが、副交感神経による心拍調節と関連します。反対に、精神的な負荷がかかったときには、これらの値が低下することがあります。
一方、ゆっくりした呼吸によっても心拍の揺らぎは大きくなります。こちらは呼吸と心拍、血圧調節のリズムが連動することによる変化で、必ずしも同じ仕組みを測っているわけではありません。
つまり、HRVは自律神経による身体の反応を調べるためのもの。
HRVの値が直接リラックス度につながるわけではありませんが、リラックス状態と自律神経の関係は切っても切り離せません。そういう意味で測定される数値です。
→ An Overview of Heart Rate Variability Metrics and Norms(2017年、PubMed Central)
呼吸|1分間6回が、ひとつの鍵?
成人の安静時呼吸数は、一般に1分間12〜20回。
一方、ゆっくりした呼吸を使った研究では、約6回/分という数字がよく登場します。これは、吸う・吐くを合わせて約10秒というペース。
心拍数は、吸うときに上がり、吐くときに下がる。約6回/分は、呼吸と心拍、血圧調節が連動しやすくなるリズムです。この呼吸では、この変化の幅が大きくなり、HRVの一部の測定値も増大します。こうした仕組みは、心拍変動バイオフィードバックという方法にも利用されています。
ひとことで言うと、呼吸の速さを変えることで、心拍のリズムにも働きかけられるということ。そして、心拍数と違って、呼吸はある程度、自分の意思で変えられます。
これは呼吸法の一つなので普段からその速さを保つ必要はありませんが、落ち着きたいときは、無理に大きく息を吸うより、苦しくない程度に吸って、ゆっくり吐いてみる。身体に働きかける方法のひとつとして、覚えておいてもよさそうです。
→ MedlinePlus「Rapid shallow breathing」米国国立医学図書館
→ The physiological effects of slow breathing in the healthy human(2017年、PubMed Central)
筋緊張|力を抜きたいなら、まず力を入れてみる?
筋肉の緊張には、心拍数のような共通の正常値はありません。筋肉の種類や姿勢、測定方法によっても変わるためです。
ストレスや緊張を感じると、無意識に肩や首に力が入っていることがありますよね。リラックスした状態では、不必要な筋肉の緊張が少ないことがひとつの特徴になります。
とはいえ、力を抜こうとしても、なかなか抜けないことも。
そんなときに使われるのが、漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう)です。
身体の部位ごとに、あえて筋肉に力を入れてから緩める方法。緊張した状態と緩んだ状態の違いを感じ取りやすくします。
2024年のシステマティックレビューでは、46研究を対象に、ストレスや不安などを軽減する効果が報告されています。
力を抜くために、まず力を入れる。
少し身体が強張っているときは、無理のない範囲で緊張と弛緩を繰り返してみるのも、ひとつの方法です。
→ 漸進的筋弛緩法が成人のストレス・不安などに与える影響についてのシステマティックレビュー(2024年、PubMed Central)
体温|手足は温かく、身体の中心を冷やす?
体温とひとことで言っても、身体の内部の温度を表す「深部体温」と、手足などの「皮膚温」があります。この2つは、いつも同じように変化するわけではありません。
眠りに入る前、身体では少し不思議な変化が起こります。
手足の血管が広がり、皮膚から熱を逃がすことで、身体の中心の温度である深部体温が下がっていくのです。
これは単に眠った結果というだけではなく、眠りに入るための身体の準備にも関係していると考えられています。実際に、皮膚温を調整することで入眠までの時間が変化した研究もあります。
さらに、健康な男性19人を対象にした2019年の研究では、温かいアイマスクを使用して眠らずに過ごしたとき、手足の皮膚温が上がり、主観的な心地よさも増加しました。一方、深部体温には明確な変化が見られませんでした。
身体の中心の温度を変えなくても、部分的な温熱刺激が心地よさにつながる場合があるということ。
寒いからと全身を厚着で覆うだけでなく、手足の冷えや身体の暑さを見ながら調整してみる。そんな温め方もよさそうです。
→ MedlinePlus「Body Temperature」米国国立医学図書館
→ 温かいアイマスクによる皮膚温・心地よさへの影響を調べた研究(2019年、Scientific Reports)
リラックスしやすい環境に、正解はある?
室温・湿度|快適な部屋は、人によって違う
室温や湿度には、快適に過ごしたり、室内環境を管理したりするための目安があります。
厚生労働省の「建築物環境衛生管理基準」では、室温18〜28℃、相対湿度40〜70%が基準とされています。これは一定規模以上の建築物などを対象とした衛生管理基準です。
一方、東京都の「健康・快適居住環境の指針」では、住宅内の湿度について40〜60%を目安としています。
どちらもリラックスそのものを測定した数値ではありませんが、健康で快適な室内環境を考える参考になります。
同じ22℃の部屋でも、服装や体調によって感じ方は変わります。窓の近くにいるかどうか、風が当たるかどうかでも違います。
快適に過ごすための数値と、最もリラックスできる数値は別のもの。
室温や湿度を調整する目的は、数字を揃えることではなく、暑さ・寒さ・乾燥などの不快感を減らすこと。
まずは自分が快適に感じる環境を整えてみましょう。
→ 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」
→ 東京都「健康・快適居住環境の指針」
音|無音がいちばん落ち着く?
静かな方が落ち着く人もいれば、音楽や雨音が流れている方が好きな人もいます。
好みは一旦置いておいて、身体の反応としては、どちらがリラックスしやすいのでしょうか。
音は、あるかないかだけでなく、どんな音なのかも重要そうです。
大学生76人を対象に、模擬試験中のテレビ音・クラシック音楽・無音を比較した研究があります。
テレビ(映像・音声)の条件では、HRVの測定値のうち精神的な負荷がかかったときに低下することがある値が、実際に大きく低下しました。
研究者は、テレビの映像や会話など、処理する情報が増えたことで、身体への負荷が強まった可能性を指摘しています。
一方、クラシック音楽と無音の条件では、その測定値が比較的安定していました。
同じ「音がある環境」でも、音の内容によって身体の反応は違うということ。
ただし、これは試験中の実験。くつろいでいるときにも同じ結果になるとは限りません。
無音にこだわるより、自分が落ち着ける音環境を選んでみるのがよさそうです。
→ 環境省「騒音に係る環境基準について」
→ テレビ・クラシック音楽・無音の条件が心拍変動に与える影響を比較した研究(2023年、PubMed Central)
照明|暖色で暗ければ、リラックスできる?
照明には、明るさを表す「照度(lx)」と、光の色味を表す「色温度(K)」があります。
一般に人間の感覚(赤=暖かい、青=冷たい)とは逆のようにも感じますが、『エネルギーが高く激しく震えている光ほど、青くなる』と考えれば、イメージしやすいのではないでしょうか。
リラックスするなら暖色で暗めの照明、というイメージもありますが、実際には照度と色温度だけで決まるものではありません。
光は、浴びる時間帯によって体内時計への働きが変わります。一般的な昼に活動して夜に眠る生活では、朝の光は体内時計を早める方向に、夜の光は遅らせる方向に働きます。
つまり、同じ光でも、いつ浴びるかによって身体への影響が違うということ。
リラックスするなら暖色で暗め、というイメージだけでなく、浴びる時間帯やまぶしさも考えて照明を選びたいところです。
→ 日本産業規格「JIS Z 9110:2024 照明基準総則」
→ CDC(米国疾病予防管理センター)「Effects of Light on Circadian Rhythms」
いちばんチルな状態は、ひとつじゃない。
いろいろな数値を調べてみましたが、結局のところ「心拍数○回、室温○℃、湿度○%なら完璧にリラックスできる」というズバリの答えは見つかりませんでした。
でも、リラックスしたときに身体で起こる変化や、その状態を作るためのヒントは見えてきました。
例えば、呼吸をゆっくりにすることで心拍のリズムに働きかけたり、筋肉に一度力を入れてから緩めたり。室温や湿度にも、快適な環境を整えるための基準があります。
今回調べた数値は、リラックス状態を知るためだけでなく、その状態に近づくための目安にもなりそうです。
もちろん、数字をすべて揃える必要はありません。
身体の反応を知り、環境を整える。そのための手がかりとして、今回の数値を活用してみてください。